フィールド調査 : 富山県魚津市

フィールド調査 ディスポーザ設置の実証実験現場を訪ねて

-富山県魚津市・東城地区農業集落排水施設-(公共投資ジャーナル社「集落排水情報」1999.8.31号より転載)

 農水省が9年度から実施している「農業集落排水施設を活用した生活排水・生ゴミ一体処理システム検討調査」の一環として、今年3月に富山県魚津市の農業集落排水・東城地区の各家庭にディスポーザーを取り付け、ディスポーザーで砕いた生ゴミを集排施設に流すことによる管路や水質への影響の調査が行われている(本誌358号参照)。東城地区内の全76世帯のうち、68世帯に70台のディスポーザーが設置され、来年3月までの1年間をかけて調査を実施。今、下水道においてディスポーザー導入の論議が盛んに行われており、本調査は集排関係者よりもむしろ下水道関係者の注目を浴びている。設置後約半年が経過しているが、本紙記者がこのほど現地を訪れ、ディスポーザー設置後の集排施設の状況や、住民の生活の変化など取材。地域住民にとってディスポーザーを使うことが日常となりつつある中で、ディスポーザーの導入が集排施設や住民の意識にどのような影響を与えているか、市の集排担当や住民の話などを聞いてまとめた。

 農水省が実施中の「農業集落排水施設を活用した生活排水・生ゴミ一体処理システム検討調査」は9年度から始まっており、国内外のディスポーザーの使用実態や研究事例、ディスポーザー導入をめぐる新たな動向、ディスポーザー使用時の住環境への影響、実証試験の方法などについて、10年度までに調査・検討を終えた。それらの結果を踏まえ、11年度に実証実験を行う地区として、小規模でまとまりが良く、住民の協力を得やすいことを条件に、東城地区が選定された。

実証実験が行われている東城地区は魚津市中心部の南東、車で20分ほどの距離にある純農業地帯の集落で、住民の多くは兼業農家である。昔から住民のまとまりがよい地区とのことで、集排事業に対しても早い時期に地区の同意が取れ、市で初めての農業集落排水事業として3年度に事業採択を受けて整備着手、5年11月に供用開始し、同年度で事業を終えている。処理人口380人、戸数84戸の計画で、約3.2kmの管路施設が敷設され、全線自然流下により各家庭から処理施設まで汚水が流入している。処理方式は連続流入間欠曝気法。

フィールド調査 ディスポーザ設置の実証実験現場を訪ねて

 同地区では今年3月、各家庭にディスポーザーを取り付け、台所から出る生ゴミをディスポーザーで砕いて集排施設に流し、ディスポーザー設置が集排施設にどのような影響を与えるかの調査を始めた。集排施設に及ぼす影響と同時に家庭ゴミに及ぼす影響も調査し、処理水質の変化や管路の詰まり具合、導入前後の各家庭から出される生ゴミの量および質の変化などを調べている。

 現地を見るにあたり、まず市の集排事業を所掌する産業振興部農林振興課を訪ね、農村整備係の寺沢利夫係長に話を聞いた。「我々は基本的には調査には一切タッチしていません。調査は農水省から委託された日本環境整備教育センター(日環教)が、地元の魚津清掃公社を通して行っています。我々が行ったのは、県からの調査の話があったことを東城地区の区長会で説明し、協力を要請したことくらいです。ディスポーザー設置についても、日環教と各家庭で直接やりとりして日時を決め、約1週間で全箇所に設置しました」、「魚津市の集排は現在、東城地区を含め3地区が供用開始しており、維持管理はすべて魚津清掃公社に委託しています。その間系で、今回の調査も公社が行うことになったのではないかと思います」と、この間の経緯を説明してくれた。

 東城地区内の76世帯のうち、生ゴミで堆肥を作っているなどの理由で設置を辞退した世帯を除き、68世帯に70台(一部集会所なども含む)のディスポーザーを設置した。ディスポーザーはアメリカのホワイトウエスティングハウス社製の、毎分2700回転の能力を持つ「WDS755Rモデル」を採用し、台所の流し台の下に取り付けた。ある家庭におじゃまして実際に生ゴミを砕いてみたが、想像していたよりも音は静かで、振動も特に気になるというようなことはなかった。かなりの量でも短時間に処理でき、今までのように生ゴミを取り除く手間を考えると、大変便利であるとの印象を受けた。ただし、ディスポーザーを作動させる場合は水を流さなければならないため、設置後は各家庭とも水道の使用料が平均して2~3割増えているとのことである。電気代は無視できるとして、魚津市の水道使用料は4人家族で月平均約4000円と、他都市に比べ若干高めのため、そのぶんランニングコストが多少気にかかる。しかし、一般的には電気、水道にかかるコスト増しはそれほど気にならないであろう。

 東城地区の集落排水処理施設は無人運転で、週1回のペースで魚津市清掃公社の職員が巡回管理を行っているが、ディスポーザー設置後の今年3月以降は、通常の管理に加え、調査のためのデータ収集などで倍の週2回ペースで巡回している。処理施設は供用開始後約7年が経過しているが、その間目立ったトラブルもなく順調に稼動している。今回の実証実験に備えて、処理施設の点検や、管路施設の点検・清掃などを行った。

 地域的な特性にもよるが、東城地区ではディスポーザーで処理される生ゴミのほとんどは野菜クズ。1~2cm角の形状にまで砕かれ、汚水とともに処理施設まで流れてくるが、曝気槽で生物処理される前のスクリーンユニットや微細目スクリーンによって取り除かれている。そのため、野菜クズが処理施設に負荷を与えることはなく、水質もほぼ従来どおりであることが確認されている。汚泥についても、今までのところ質・量とも特別の変化は見られない。ただし、し渣についてはディスポーザー設置前に比べ2~3割の増加となっている。それら増加分はディスポーザーで処理された生ゴミ。結果的には、従来は各家庭で処理していた生ゴミを処理施設でまとめて処分していることになる。貯まった生ゴミを取り除くことが、現在維持管理や調査のための処理施設を巡回する公社職員の大きな仕事の1つとなっている。

 魚津市は東京都などと同じように、生ゴミは可燃ゴミとして紙ゴミなどと一緒に収集している。ディスポーザーによって生ゴミが集排施設に流せるようになって、可燃ゴミの中でかなりの重量を占めていた生ゴミがなくなったため、多くの世帯、特に老人世帯でゴミ出しが楽になったとの話を聞く。生ゴミの排出量は減っているが、各家庭のゴミ出し回数は以前と変わらないとのことだ。地区住民の声はおおむねディスポーザーに対し好意的だが、臭気の問題を指摘する声もあり、特に天候や風向きによってかなり強い臭いがする、とも。これは、破砕した生ゴミの一部がディスポーザー内に残ってしまうことによるものと思われる。

 実験開始後、処理施設についてはトラブルもなく順調な運転を続けている。また、実験前の調査段階では、トラブルが発生するとしたら、処理水質などよりも管路の詰まりではないかと予想されていたが、これまで閉塞などは報告されておらず、従来どおりの機能を果たしている。特に、集落から処理施設に流れ込む約500mの間の管路については、勾配は十分であるが曲線が多く、関係者が最も心配していたところだが、今のところトラブルは発生していない。

 今回現地を見学し、関係者から聞いた今までの経過などを統合すると、ディスポーザーを設置したことが原因となる大きなトラブルは起きないのではないか、との印象を強くした。今回の実験は東城地区という限定された場所で行われているため、水質への影響などは事前にある程度予測することが可能であったと思われる。下水道が実施されている都市部で今回と同様の実験を行ったら、どのような結果が出るのか大変興味のあるところだ。

 今回の調査の目的は、集落排水施設にディスポーザーを導入した場合のデータ収集と蓄積とをめざすもので、ディスポーザー導入を前提とした集落排水施設づくりを今後進めていくという狙いではない。農水省の担当者によれば、「ディスポーザーに関する自治体からの問い合わせに対し、多くのデータを用意し対応するためのもので、ディスポーザー導入を認めるとか、促進するための調査と言うことではありません。それは事業主体である各市町村の事情によると思います」と強調する。

 東城地区での実験は今年度末に終了し、12年度に最終的な取りまとめを行う。なお、東城地区に設置しているディスポーザーは実験終了とともに撤去される。

(取材・文 津留和人)